世界で最も尊敬された中村哲医師 ―今そこにいる苦しむ人の為にー
中村医師が銃撃されたというニュースに全身の力が抜けた。
涙が止まらない、とか茫然自失とか、信じられないとか、
怒りと悲しみに溢れた、おびただしい数の追悼コメントが、
世界中から誰よりも多く寄せられている。
昨年春、私は数十年の夢が叶い、先生の講演を聴ける機会に恵まれた。
憧れの中村先生は、何処にあの情熱が隠されているのだろう、
小柄で洒落っ気の全く無い素朴な赤ひげ先生。
そこで語られた言葉の重みは、私の陳腐な言葉では語りつくせない、
心に突き刺さる。
彼の生きざまは、超人的でありながら、気負いも衒いもない。
苦しむ人のために、世界から忘れられた人々のために、情熱を傾ける。
武器ではなく、井戸を、用水路を、命の水を。
中村先生の著書;“医は国境を越えて”から
《そうそうと流れる渓谷のせせらぎが闇に聞こえる。このアフガニスタンの山中で、日本の誰も味わえぬ平和なひと時をかみしめる。これも役得だろう。見上げるといつもながら降るような満点の星屑である。北極星を探して東を定め、遠い日本に思いを馳せる。(略)
ここでは、生も死も、悠久の大自然の中に忽然と溶け合っている。(略)
ここ極貧の「文明の辺境」では、分を超えた生への執着や「不安の運動」から、私たちが自由であることに感謝した。》
アフガニスタンの辺境の地で、最も否定した武力によって命を奪われた先生を思い、
我々は畳をかきむしるほどの、悲しみのどん底に突き落とされているが、
中村先生は悠久の大自然の中で生死を超えて生き続けている。